アンドレ・ジッドの 「地の糧」、「新しき糧」とわたし

アンドレ・ジッドの 「地の糧」、「新しき糧」

アンドレ・ジッド (André Gide,1869年11月22日 – 1951年2月19日)は、わたしが大きく影響を受けた作家の1人。彼の書いた作品「地の糧」(1897年)、「新しき糧」 (1935年)の両作品は残念ながら現在すでに絶版となっており、古本屋でも見つけることは極めて稀と言わざる得ない希少本となってしまっている。また1947年にノーベル文学賞受賞を受賞している一方、その作品はローマ教皇庁によって禁書と認定されている。欲望の肯定、神の取り扱いについておおよそ、折り合わなかったのだろう。

2013年に中古で手に入れた「地の糧」と「新しき糧」は折に触れて読み返しているわたしの大切なほんとなった。読むたびに新しい気づきをしたり、忘れていた大切なことを思い出したりと、自分の状態を把握する物差しのような役割を果たしてる。また好きな文章はノートに書き写したりしていろんな形でこの本と一緒に時間を過ごしている。わたしにとって消費する本ではなく、一緒に年月を重ねていく本なのだろう。そんな本に出会えたということは幸せなことだと思う。

1.地の糧について

作家:André Gide (アンドレ・ジッド) / Les Nourritures terrestres (1897年)
訳1:地の糧 (新潮文庫、1952年) 今 日出海訳
訳2:地上の糧 (角川文庫、1953年) 訳者:堀口 大學訳

ジッドが「地の糧」を書き始めたのは、1895年でつまり彼が26歳ときだ。(今日出海訳のあとがきに記載があった。)1897年の出版ということはアンドレ・ジッドが28歳の時、出版社はメルキュール・ド・フランス社。

また本作は2つの訳が存在している。ひとつは新潮文庫から1952年に出版された今 日出海訳の「地の糧」。もうひとつは角川文庫から1953年に出版された堀口 大學訳の「地上の糧」だ。

訳の違いを知りたくて、こちらも買って見たところ堀口 大學の訳はやや固く、直訳に近いニュアンスを持っていてややぎこちない。今 日出海訳はより現代に寄せた言い回しになっている点が大きな違いだ。
訳のニュアンスがどの程度の違うか、参考までに最も有名な文章と思われる箇所を抜き出してみてみる。

a.今 日出海訳

行為の善悪を判断せずに行為しなければならぬ。善か悪か懸念せずに愛すること。
ナタナエル、君に情熱を教えよう。
平和な日を送るよりは、悲痛な日を送ることだ。
私は死の睡り以外の休息は願わない。
私の一生に満たし得なかったあらゆる欲望、あらゆる力が私の死後まで生き残って私を苦しめはしないかと思うと慄然とする。
私の心中で待ち望んでいたものをことごとくこの世で表現した上で、満足して、- 或いは全く絶望しきって死にたいものだ。

b.堀口 大學訳

その行為の善悪は判断せずに行動すべきだ。
それが善意ことだか悪いことだかなど考えずに愛すべきだ。
ナタナエルよ、僕は君に熱情を教へよう。
安穏な一生より、なた寝るよ、むしろ悲痛な生活こそ望ましい。
死の眠り以外の休息は僕は希はない。
自分の一生の間にみたし得なかつたすべての欲望、すべての機能が、生き残つてまで僕を悩ましはしないかと僕は怖れる。
僕は希望する、この地上にあつて自らのうちに待機していゐたあらゆる事柄を表現した上で – 満足して – ことごとく絶望して死んで行きたいと。

2.地の糧 英語版について

作家:André Gide / Les Nouvelles Nouritures
作品:André Gide / Fruits of the Earth (Éditions Gallimard, 1917)

英語訳された「地上の糧」(タイトルをFruits of the Earth という)をロンドンのWaterstonesで見つけてきたので、日本語と同じ箇所を抜き出してみる。

c.英語訳

Act without Judging whether the actions right or wrong.
Love without caring whether what you love is good or bad.
Nathaniel, I will teach you febour.
A harrowing life, Nathaniel, rather than a quiet one. Let me have no rest but the sleep of death. I am afraid that every desire, every energy I have not satisfied in life may survive to torment me. I hope that after I have expressed on this earth all that was in me waiting to be expressed – I hope that I may die satisfied and utterly hopeless.

3.新しき糧について

作家:André Gide / Les Nouvelles Nouritures (1935年)
作品:アンドレ•ジッド / 新しき糧 (新潮文庫、1936年)
訳者:堀口 大學

新しき糧は全4巻で構成されている。堀口 大學のあとがきによると、第一巻は歓喜の賛美。第二巻は「神」に対する信念の批判。第三巻はジッド地震による過去の検討と忠告。そして第四巻は人類の進歩の可能性の立証だ。これはつまりジッドの体験から導きだされた「精神的遺書」である。

したがってジッドはこう書き記す。

「僕は今これを書く、後日、16歳の日の僕に似て、しかもより自由で、より成熟した一人の少年が、この書の中に彼の切実な質問に対する答えを見出し得るようにと。」

この2作品は、絶版になっているため、なかなかその素晴らしさが伝わりづらい状況にある本になってしまっている。絶版ゆえ、私が一部テキストをデータ化するなどして、この本を読みたい人たちの役に立てたらと思っている。この本に対してはそんな使命感を感じてしまっている。

カテゴリー: 2019